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Techno Person

きれいな空気のプロ

超クリーン空間の追求


株式会社テクノ菱和 大阪支店
羽鳥 均

パソコンや携帯電話をはじめとするIT機器は、今や生活の必需品。
これらの機器に使用される半導体を製造するためには、
室内の空気から細かいホコリなどを取り除く
「クリーンルーム」の設備が欠かせません。
クリーンルームとは何か──
長年その開発を手がけてきた設計マンに、
クリーンルームの歴史やしくみなど素朴な疑問を聞いてみました。

半導体の進歩とともに高精度化

──クリーンルームという設備は、どこでどのように生まれたのですか?

クリーンルームを最初に設置したのは、アメリカの航空局と言われています。飛行機の精密部品はホコリの少ない環境で作られる必要があり、その技術がNASAの宇宙開発でロケットを作る際にも使われました。
これが一般的な電子部品や精密機器の製造工程にも普及していき、特に半導体集積回路の工場ではクリーンルームが必須の設備となりました。集積回路はウエハーと呼ばれる薄い基板の上に非常に細かい配線を施して作られるので、目に見えないごく小さなホコリが付着しても回路がショートしてしまう原因になるのです。
したがって、集積回路の技術が進歩し配線がどんどん微細になっていくのに合わせてクリーンルームの精度も上がってきたという経緯があります。今日では空気中に浮かんでいる直径0.01μm(10万分の1ミリ)の微粒子もコントロールできる「スーパークリーンルーム」が生まれています。

──クリーンルームのしくみを簡単に教えてください。

クリーンルームでは、空気中に浮かんでいるホコリ類をフィルターに吸着させることで空気をきれいにしています。このため、クリーンルーム内に風を送り、空気が室内を循環するようにします。空気がぐるぐる回るにつれてホコリがフィルターにたまっていき、空気中のホコリがどんどん少なくなっていく──これがクリーンルームの基本的なしくみです。
このしくみ自体はクリーンルームが最初に作られたころと今も変わっていません。

小さい粒子ほど取れにくいとは限らない

──クリーンルームで制御されるホコリの大きさや空気のきれいさに基準はあるのですか?

NASAのクリーンルーム規格では、管理するホコリの粒子の直径を0.5μmとしています。これが1立方フィート中に何個あるかで空気のきれいさ(清浄度クラス)が決まります。
クリーンルーム規格には、NASA以外に米国連邦209シリーズ、JIS、ISOがあり、最近は国際規格のISO 14644シリーズに統一されつつあります。ISO 14644が制定されるときは、当社もその原案づくりに関わりました。

──その規格というのは、具体的にどのようにイメージすればいいのでしょう?

たとえば、ISOクラス1の場合は、空気1立方メートル中に0.1μmの粒子が10個以下でなければなりません。これは太平洋にアジが10匹以下しか泳いでいない状態と同じイメージです。
制御する粒子の大きさは、作られる工業製品の要求によって変わってきます。今では0.05μmや0.01μmという大きさまで制御されるようになっていますから、太平洋でアジどころかメダカを捕るに等しい精度が必要です。

──これからもさらに細かいホコリを取る技術が必要になっていくのでしょうか?

今は0.01μmの粒子まで制御できると言いましたが、この先0.01μmより小さい粒子を制御する必要は出てこないと思います。
それに、ホコリは小さければ小さいほど取れにくいというものでもありません。実は0.1μmの大きさの粒子が一番取れにくい。それよりも小さいホコリの粒子には「拡散」という物理現象があるので、むしろ0.1μmの粒子よりもフィルターに吸着しやすいんです。

クリーン空間に求められる新しい課題

──テクノ菱和独自のクリーンルーム技術があれば教えてください。

クリーンルームで問題になるのはホコリだけではありません。半導体や粉状の製品を扱う工程では、静電気もトラブルを起こす原因として嫌われます。当社は微弱X線と超清浄ガスによる独自の方法で静電気を除去する装置(イオナイザー)を開発しました。
また、生産工程で発生するナトリウムや塩素、アンモニアといったガスが問題になることもあり、これらを水の中に溶け込ませることによって除去するUCASS®(ユーキャス)という装置も手がけています。

──今後のクリーンルーム技術の課題は?

ホコリを取るという点に関しては、クリーンルーム技術は究極と言える段階に来ています。それよりも静電気やガス、有害な化学物質をいかに生産現場から取り除くかが課題と言えるでしょうね。
さらに、最近は低炭素化にどう対応するかが大きな課題になっています。工場というのは大量のエネルギーを使う場所ですから、いかにCO2を排出させないようにするかが重要です。
たとえば、クリーンルーム全体の空気を均一にきれいにするのではなく、必要な場所だけを集中的にクリーンにする──そういう方法でコストやエネルギーを抑えることができます。

──最後に、仕事上の苦労・やりがいなど教えてもらえますか?

クリーンルームの新しいシステムを開発する場合は必ず実験が必要になります。クリーンルーム内にホコリを発生させる最大の原因は人間です。作業者がクリーンルーム内を歩行すると、製品にどれだけ影響を与えるか検証したことがありました。実験用のクリーンルームを作って、一日中、何度もその中を歩き回ったんです。
骨の折れる作業でしたが、現場で得られたデータをもとに新しいクリーンルームを開発できたときは喜びもひとしおでした。
お客様のニーズを聞き出し、お客様とともに最適なソリューションを実現していくことが当社の特長ですし、私自身も、そこに一番やりがいを感じます。最近は現場にほとんど出ない設計マンが少なくないのですが、ニーズをきちんと把握するためには、現場を肌で知る経験も大切かもしれませんね。

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